日々のエッセイ

山里の鉄人を訪ねる

玉ねぎ、もっていくかぁ。ネギはどうだ。生姜はどうだ」。
「はい、いただきます」
訪ねるたびに、いつもいただく。両手で抱きかかえてもあふれるほどだ。ありがたいかぎり。

この方が育てた野菜は、どれをとっても立派で美しい。凛としている。畑の作り方、柵の打ち方なども整然としている。
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宮脇眞一さん(91歳、浜松市天竜区春野町)を訪ねた。
なんでも、できる方だ。畑仕事、草刈、木工、機械の修理。有機茶を栽培し生葉の審査役(生茶の等級をつける)を務めた。シイタケづくり。何十キロもある椎茸の原木を軽々と担いでいた。ぶどう棚もつくった。

難しい古文書も読める。モールス信号も打てる。車も大型も二種も運転できる。鉄柵の一級架線技師(山から材木を出す時に張る)の資格もある。

秋葉神社の神官を務めた。詩吟をうたう。春野町の老人会の会長もしていた。人のお世話をすることが楽しいのだ。しかも、無欲で恬淡としている。
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山育ちで体が頑健だ。歯は26本もあり、すべて自分の歯だ。驚くことに、ビール瓶の蓋を歯で抜くことができるという。

毎日、克明な日記をつける。8歳のときから、一日も欠かさずにつけてきた。

18歳のとき、志願して兵隊(騎兵連隊)に行った。トイレの中の微かな灯りで日記をつけた。その日記は、すべてちゃんと保存してある。

認知症になった妻の介護を何年もして、食事から下の世話まですべてされていた。「そんなことは、なんでもない」と楽しそうに笑う。やがて、妻は近くの介護施設に入ることになり、昨年、97歳で亡くなった。
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長寿国日本である。だが、長生きしてもさみしいのは、「きょういくがない」(今日、行くところがない)こと、「きょうようがないこと」(今日、用事がない)ことだ。

生涯現役。人の役に立つこと。人によろこばれること。そういう生き方がいい。そんなお年寄りに出会うと、活力をいただく。
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山里は過疎化が著しい。宮脇さんの暮らす春野町は、この10年で2割以上の人口減だ。しかも加速度を増している。ひとり暮らしのお年寄りが増える。空き家も増える一方だ。活気はなくなる。

だが山里には、山と森林、清流、茶畑など、豊かな自然がたくさんある。見方によっては、宝の山だ。そうして、いちばんの宝は、こうして元気で生き生きとした、まさに「鉄人」のような方がおられることだ。

 

※かつて紹介したことがあるが、あらたに健康長寿財団の雑誌の仕事で取材してきた。あかりをつれて。あかりが騒いで話ができなかった。でも、おかげでいい写真は撮れた。

鉄人の家を訪ねてみたものの あかり騒いで話もできず

2枚目は日記帳。3枚目は軍隊のときの靴。

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