日々のエッセイ

拡大造林によるスギ・ヒノキの森ばかり

都会は、買い物が便利、仕事がある、教育も医療もととのっている。いろいろ文化的なことに触れやすい。
 
そんな都会を離れて田舎に暮らすとなると、やはり不便だ。買い物は遠い、店がない、品揃えがない。仕事がない。教育も医療もきびしい。なにより文化が希薄。加えて人間関係が濃密で閉鎖的。とまあ、たいへんさがある。
 
けれども、田舎の大きな魅力は、自然が豊かなことである。山がある、清らかな川がある、空気がうまい、水がうまい、土地が安い、田園風景がひろがる。
 
なかでも、森があることが大きな魅力だ。月夜の晩に森を散策して、笛でも吹きたいものだ。そんな暮らしがいい。そう思っていた。
 
そうして、移住して数年。どうもちがうなあと気づかされることになる。ここには、山もある、きれいな川もある、田んぼもある。たしかに自然は豊か……。のように見えた。
 
森はあるが、その中身だ。ほとんどがスギとヒノキばかりなのだ。針葉樹は紅葉しない。日が射さない。鬱蒼として暗い。下草は生えない。動物も昆虫もほとんどいない。鳥もいない。とてもその中を歩こうなんて気にならない。山里の森はそんな状態なのだ。
 
これは日本全国、似たような状態であろう。日本は、国土の7割が森林である。じつにその4割が人工林。中身はスギ・ヒノキ、あるいはカラマツ、アカマツばかりなのである。
 
戦後の拡大造林による人工林はぐんぐんと育ってきたが、もう需要がない。輸入材に押され、軽量鉄骨やツーバイフォーなどの工法の変化で、国産材はかつてのようには消費されなくなった。伐採しても経費倒れで赤字になる。放置されたままだ。放置林は、深く根を張らないので保水力が弱い。ゲリラ豪雨などがあると、土砂崩れを起こす。
 
都会にいるときには、森というものの中身をよく知らなかった。これほどの人工林の増大に気がついたのは、移住してからだった。いたるところのスギ・ヒノキの森を眺めていると、広葉樹の森に還ることはまったく絶望的だと思われる。
 
東京のほうが、むしろ雑木林が多いように感じる。武蔵野のケヤキの森、平林寺の森、新宿御苑。そういう森に接するとほっとする。
 
いい方法がないものだろうか。広葉樹の森のある山里に移住する。敷地に広葉樹を植えて、じっと待つ。世の中、そうしたものだと諦める。あきらめて、なにかいいことを見つける。まったく名案がない。
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