日々のエッセイ

空き家を貸してくれない理由

山里は、空き家はたくさんある。一人暮らしのお年寄りが多いので、これからも増える。空き家を若い人たちに貸せば、山里も活気づく。お年寄りの見守り支援にもつながる。ぼくがこの3年間で移住相談を受けたのは、100人を超える。広報したら、その数倍の人があらわれると思う。

しかし、空き家はあっても、なかなか貸してくれない。貸してくれない理由はたくさんある。たとえば、年に一度は、墓参りに帰ってくる。貸してしまえば、地域と縁が切れてしまう。遺品の整理がたいへん。貸すには補修が必要。いちど貸したら、退去してもらえなくなる。だれに貸していいのかわからない。きっかけがない……など。

それからこんな話も聞いた。ある家は、夫婦ともに特別養護の老人ホームに暮らしている。立派な庭があるが、すでに空き家になっている。おそらく帰ってくることはないだろう。放置しておくと、家は荒廃していく。庭の管理もたいへん。貸せばいいのにとおもう。だが子どもにとって、親が帰る唯一の場所だから、貸せないという。暮らすのは、もはや不可能にしても、亡くなった時に、親が長年過ごした家でお通夜をして、出棺したい。地域のみんなにもみまもられて、旅立たせてあげたい、と。

その気持ちはよくわかる。ぼくの母は昨年、亡くなった。暮らしをした家は、空き家になってしまった。管理もたいへん。売れるうちに売ったほうがいいというので、きょうだいで相談して、売却してしまった。母ももちろん賛同していた。ところが、あるとき母は「家を売るんじゃなかった、残念なことをした」としみじみつぶやいた。長年、夫婦で暮らした家に対する思い入れは深い。そして、唯一、気が休まる場所。帰る場所だ。その家が壊されてしまったので、母はかなり気を落としたようだった。母ももう、ながくないなぁというとき、いちどは家に帰らせてあげたかった。家で休ませてあげたかった。しかし、もう家はない。通夜にしても葬儀にしても、あるいは初盆にしても、もしも家が残っていたら、そこで儀式が行えたのになあと思うことがある。

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